世界で初めてX線CTで先史時代の網を再現~縄文時代の網の構造解明と縄文時代のSDGs?網製品の土器作りへの再利用を立証~

<研究の内容>

 熊本大学名誉教授の小畑弘己(おばた?ひろき)教授らは、これまでその構造がまったく不明であった縄文時代の網製品(漁網)を土器の中や表面に残る圧痕から復元することに成功しました。

縄文時代の網製品は実物が愛媛県の船ヶ谷遺跡(縄文時代晩期)から発見されていましたが、網の構造についてはまったく不明な状態でした。そこで、小畑教授らは、北海道の日高地方や石狩低地から発見される「網状混和物」を含む土器、さらには九州地方を中心に発見される組織痕土器の網圧痕に注目し、XCTやレプリカ法などの手法を用いて、それらの撚糸のサイズや撚り方向、結び方、網目サイズなどを復元し、網の構造を復元するとともに、土器製作において、使用済みの漁網もしくは網製品が再利用されている事実を明らかにしました。

本研究は、これまで実物が少なく、立証できなかった縄文時代の網を、土器に残る痕跡「圧痕(スタンプ)」から復元するという着想と、それを可能にするXCT技術から生まれたもので、世界でも初めての試みであり、高い学術的重要性と、同様の背景をもつ地域考古学の有機物製品の復元研究に寄与する可能性を秘めた研究と言えます。

本成果は令和7年4月18日(英国同日)に英国の考古科学雑誌「Journal of Archaeological Science」でオープンアクセスで公開されました。また、本研究とその公開は文部科学省学術変革領域研究(A)「土器を掘る」および日本学術振興会科学研究費補助金(基盤A)の支援の下で行われました。

<本論文の内容と意義>

網製品の種類を同定するには、網の詳細な構造(作り方)復元が手掛かりとなります。これらの問題を解決するため、小畑教授らは、新ひだか町博物館、浦河町立郷土博物館、様似郷土館、北海道埋蔵文化財センター、鹿児島県立埋蔵文化財センター、熊本大学X-Earth Centerの全面的な協力を得て、7遺跡24点の静内中野式土器と20遺跡80点の組織痕土器をX線CT撮影やレプリカの作製を行い、調査しました。

その結果、静内中野式土器の場合、撚糸は1段左撚り、結び方は「本目(ほんめ)結び」、組織痕土器の場合、撚糸は1段右撚り、結び方は「止め結び」であり、両者とも従来予想されていた結び方ではありませんでした。さらに組織痕土器のうち、とくに6.5mmより小さい網目サイズのものには、漁網の作り方と異なる布織りの技術が用いられており、これらは漁網ではなく、袋などの網製品であることが明らかになりました。これは、組織痕土器の網が、土器粘土と型との間に敷かれた離型剤としての役割を果たしており、できるだけ細かな目のものが求められたためです。逆に静内中野式土器の場合は、網目サイズが大きいものばかりであり、土器粘土紐の芯材として入れるためにできるだけ長い漁網(網目サイズが大きい)が好まれた結果と言えます。さらに、静内中野式土器の場合はサイズの異なる網が同じ土器の芯材として利用されていること、組織痕土器の場合は破れた網も使用されていることから、素材は不明(おそらく植物繊維)ですが、寿命が短く使えなくなった網製品や漁網を土器の素材や道具として再利用するという行為が行われていたと推定されます。これはまさに縄文時代のSDGsと言えます。よって、これらの圧痕は当時の両文化における漁網のすべてを表すものではないという結論に達しました。

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図1 北海道静内中野式土器と調査対象遺跡(上段)および九州組織痕土器と調査対象遺跡(下段)

図2 静内中野式土器と内部のX線断層?X線CT3D画像?透過画像

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図3 静内中野式土器の結び目のX線CT3D画像と結び方の復元写真

撚糸が主として横方向に緊張されるので、撚糸が動いて、ずれが生じているが、基本的に「本目結び」(Reef knot)およびその変形である「ひばり結び」(Cow hitch knot)(中央最下段模式図)で結ばれていることがわかる。

図4 九州地方の組織痕土器の網圧痕の実測図

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【詳細】プレスリリース(PDF1.9MB)


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<熊本大学SDGs宣言>

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